某对姊妹的故事【とある妹のお話】
以下为日文原文

とあるお嬢様学校には「エルマーナ」と呼ばれる伝統が存在する。

スペイン語で「姉妹」という意味を持つこのシステムは、文字通り生徒同士が「姉妹」のような関係で結ばれることをいう。

上級生を「姉」下級生を「妹」と位置付け、本当の姉妹のように学園生活を過ごすこの伝統は、卒業した後でもその関係が続くほどに姉妹二人を強く深く結びつける。

上級生が下級生に声をかけて「エルマーナ」となることが大半だが、ごくまれに下級生が上級生を誘って姉妹になることもある。

高嶺の花の上級生の「妹」になることは下級生の憧れであり、良き妹の「姉」であることは優れた生徒の証とされる。

だがこれは逆に言えば、「妹」が問題を起こせば「姉」の責任となることであり、エルマーナの絆を結びたがらない生徒も多い。

そして高嶺の花の「お姉さま」の「妹」になった下級生が、同級生からの僻みや嫉妬に襲われるということもまた避けられない事実であった。

この学校の寮は二人一部屋となっており、同級生がペアになって生活する。しかし「エルマーナ」が成立した場合に限り、学年の垣根を越えて同部屋が与えられる。

食はともかく衣住を共にし、姉が妹に様々なことを教え込んでいくためだ。

その教える内容にはエルマーナごとに差がある。

しかし不思議なことに、その方針は一貫していたのである。

○月4日 

寮のとある一室に、肉を打つ音と泣き声が響いていた。

ベッドの上に正座した短い茶髪の少女の膝の上に、赤毛の長髪を綺麗にこしらえた小柄な少女が横たえられている。

身に着けている印から、茶髪の少女が二年生、赤毛の少女が一年生ということが分かる。

破裂音の源は赤毛の少女のお尻だ。

彼女が下半身に身に着けていたはずの下着は、その膝頭あたりで一本のひものようにねじれて絡まっている。

剝いたばかりのゆで卵のように綺麗だったはずのお尻は、茶髪の少女の平手打ちでみるみるうちに真っ赤に染まってゆく。

赤毛の少女はお尻に手のひらを打ち付けられる度に、ごめんなさい、お姉さまごめんなさいと叫びながら、足をばたつかせてベッドにバンバンと叩きつける。

すでに朱に染まったお尻を左右に振って痛みから逃れようとするが、腰のあたりをがっちりと掴まれているためか全く逃げられていない。

一方。正座した膝の上でお尻を打ち据えている茶髪の少女は、泣きじゃくる姿を見ても一向に平手打ちを緩める気配がない。

情け無用と言わんばかりに、赤毛の少女の懸命な謝罪を塗りつぶすような平手打ちの音が部屋に反響する。

赤毛の少女が抵抗をあきらめ、大声で泣きじゃくるしかできなくなるまでその音は響き続けた。

***

私、藤綱ふじつな麻奈まなは、双眸から涙をボロボロとこぼしながらベッドの前に立っている。

下着は降ろされたままで、スカートは背後だけが捲り上げられて赤いお尻は丸出しだ。

時折しゃくり上げるように鼻水をすすると、はずみで目尻にたまった涙がまとまって床にポタリと落ちてゆく。

その視線の先には、私が先程まで散々にお仕置きされていた場所がある。

ベッドに腰掛けたお姉さまのお膝。

お姉さまの私への教育方針は一貫している。

悪い子にはお尻ペンペンのお仕置き。

だから私は事あるごとにお姉さまにお尻をぶたれている。

お姉さまと同じ自分の部屋で正座させられて、お説教されて。そして最後は例外なく、お膝の上でお尻を裸にされてペンペン。

私は視線を動かし、お姉さまのお顔を見る。

咎めるような視線が私をじっと見上げていた。

まだお仕置きは終わっていませんよ。そう言っているような表情に、私の鼻の奥が一層痛くなった。

「う…うっ…、おね、さま…」

「まだ駄目」

甘えようとしたところでピシャリと言い放たれ、私は涙にむせるような感覚を覚えた。

視界がぼやけても絶対に目はそらせない。お仕置きの後はちゃんと目を見るよういつも言われているからだ。

涙も拭わない。両手を太ももの横にぴったりとつけ、気を付けの姿勢でただじっと待つ。

「…っ」

恐怖が小さな泣き声となって、必死で噛みしめた歯の間からこぼれる。

お尻が熱い。トマトのようにぱんぱんに腫れた左右のほっぺたが声高に痛みを訴えてくる。

時間にして5分くらいたってからだろうか。私をじっと見据えていたお姉さまの目がすっと閉じられる。しばらく瞑目すると、やがて頬を緩めながら短く息を吐かれた。

「いいわ。終わりにしましょう」

今までと違う声色に、私の心に安堵が広がった。

お仕置き、終わったんだ。

長い息が口から吐き出されて体の緊張が解けていく。同時にこらえていたものが涙となって溢れ出した。

「ひっく、おねっ…、っく…、お姉さまぁっ…」

甘えるような声が涙と一緒になって出ていく。私はうつむくと、太ももから離した両手でごしごしと涙を拭いた。

泣きじゃくる私の耳に、お姉さまの「あらあら」と心配するような声が聞こえる。

涙を拭って湿った両手をぎゅっと握りしめると、お姉さまが幼子を抱きかかえる時のように両手を前に出しているのが見えた。

「さ、いらっしゃい」

頷いたはずみで頬を伝った涙が、指でそっと拭われる。私は小さく頷くと、お姉さまの手を取った。

膝の上に座らされる。腫れたお尻が痛かったが、私はそれを隠すようにお姉さまに抱きついた。

私の涙がお召し物に染み込んでいくのがわかる。顔を少しだけ離そうとしたら、後頭部に手のひらをあてがわれ、抱きしめるように胸に顔が押し付けられた。

しゃくり上げで波打つ私の背中がゆっくりと撫でられ、お姉さまの声が降ってきた。

「よしよし」

トントンと背中を叩かれ、一層強く抱きしめられる。

お仕置きの後のお姉さまはいつも、自分のお召し物が汚れることも厭わず私を慰めてくれる。

それが嬉しくもあり、また辛くもあった。

「お姉さま、お召し物が…」

「いいのよ」

耳元でお姉さまの声が聞こえる。

泣くまい、泣くまいと頑張っているのに、私を嘲笑うかのように涙はとめどなくあふれ出てくる。

必死に我慢した分の涙が、瞼へとあふれずにひそかに鼻へと伝って行く。それが鼻水へと変わってまたお姉さまのお召し物を汚していく。

悔しくて、情けなくて。私は自分を慰めるようにお姉さまに強くしがみついた。

「我慢して偉かったわね。怖かったでしょう」

頭を優しく撫でられる。

私のせいで服を着替える羽目になってしまったというのに、お姉さまはもう私を叱らない。

胸のなかで何かが崩れた音がして、それがそのまま涙として流れる。

「ごめんなさい…駄目な妹でごめんなさい、お姉さま…」

直後に何かを言われたような気がするが、そこから先のはっきりとした記憶はない。

きっと私は、そのまま寝てしまったのだろう。

○月5日 夕暮れ

お仕置きされた翌日。

学校が終わり、私は疲労困憊で寮に戻った。

実は今私には大きな悩みがある。

それはただ一つ、時間が足りない。

一年生の私が覚えることが多いのは当然なのだが、それだけではない。

お姉さまの妹であること、伝統的にエルマーナというらしいが、それに関しても色々と覚えなければいけない。

加えて私の家は比較的家格が低いため、同級生らが当たり前にできることを私は知らなかったりする。幼少期の教育格差というやつだ。

だからそれも覚えなければいけない。

つまり今の私の能力は生徒の中でも、ゼロどころかマイナスの状態だ。

睡眠時間を削って色々頑張っているが、それでもまだ足りない。ちなみに寝ていないことがバレたらお仕置きされてしまうため、こっそりと隠れながらやっている。

私はいつも学校で、雪の結晶のような形をした徽章を制服の胸につけている。

これはエルマーナ徽章と呼ばれ、姉妹の契りを結んだ生徒しか付けられない。

存在するエルマーナの数だけ種類があり、混同が起こらないようになっている。もちろんお姉さまも私と同じものをつけている。

ただこの徽章は私にとって決してメリットばかりではない。

生徒の家柄を、最高が「1」、最低が「5」として五段階に分けるなら、私の家柄はせいぜい「4」がいいところだ。

はっきり言って、胸を張れるような家柄じゃない。

一方、私のお姉さまは皇嘉こうか幸乃ゆきのという名前なのだが、皇嘉という格式ばった苗字からもわかる通り、その家柄はとても高い。

さっき私が述べた五段階評価に当てはめても、「1」の部類に位置するのは間違いない。

エルマーナとはいえ、身分違いもいいところだ。

つまり私は常日頃から「私は皇嘉幸乃お姉さまの妹です」と喧伝していることになるわけで。

どうしてあなたみたいな人が皇嘉様の妹なのだと、きつい言葉をぶつけられたのも一度や二度ではない。

でも、できることや知っていることを踏まえれば、私の立ち位置はマイナス。同級生らと同じスタートラインにすら立っていないのだから、そう言われるのも当然だ。

だからせめてゼロにならないと、私に声をかけてくださったお姉さまにも失礼だ。

もっと頑張らないといけない。

部屋に戻ると気が緩んだのか、疲労感が私の全身をどっと覆う。

時計を見る。お姉さまが戻ってくるまでは1時間以上あった。

ちょっとだけ横になろう。

休んでから片付ければいいやと、適当に靴を脱いでカバンを床に落とす。

その瞬間だった。

いきなり視界がゆっくり回転し始めた。写真を上下さかさまにしていくように。

「あ……っ」

目を閉じて頭をぶんぶんと振る。

でも次の瞬間、床が傾いたのかと思うくらいに視界がグラグラと揺れた。私の足はしっかりと地面についているはずなのに。

それがめまいだと気付いた時には、もう立っていられなかった。

部屋がぼやけて二重に見える。

自分の顔を伝う冷や汗が、まるで氷点下に落ちたように感じられた。

たまらずそのまま自分のベッドに倒れこむ。

起き上がれない。自分の体が鉛になってしまったようだった。

(だめ…ちゃんと、片付け、しないと…)

強烈な眠気に襲われて、私の意識はぷつりと切れた。

***

寮の部屋に戻った皇嘉幸乃は、ある違和感を覚えた。

いつも「おかえりなさい」と言ってくれる麻奈の声が聞こえない。

私は、何かあったのだろうかと部屋を見まわす。

床に目を落とすと、麻奈のものと思われる靴が派手に脱ぎ散らかされ整えられてすらいなかった。カバンも無造作に転がっている。

私は、制服を着替えることもなく枕に顔を埋めたままベッドにうつ伏せになっている麻奈を見つけた。

「麻奈…?」

いつもなら私に顔を向けて話しかけてくるのに、今日は一言も話していない。

顔を近づけてみる。

すーすーと寝息を立てて眠っていた。

「あらあら…」

私は麻奈の頭を優しく撫でる。

おそらく学校から戻ってすぐ、倒れこむように寝てしまったのだろう。

起こすべきか、声をかけるべきか。

正直こんなことは初めてで、どうしていいのかわからない。

さすがにこれだけでお仕置きするほど私も鬼じゃない。ただ、少しだけお説教はしておかないといけないかな。

そう考えた瞬間、麻奈が飛び起きた。

制服がひどく乱れてしまっている。

私は思わず目を見開いた。

明らかに顔色が悪い。疲労の色がありありと見える。

冷静に考えれば、一年生にはこの学校で覚えなければならないことがたくさんある。それに麻奈はエルマーナだ、負担は倍増だろう。

加えて、麻奈の家柄はいいとはいえない。幼少期の教育で差がついてしまっている部分もある。本人もそれを埋めようと必死にやっているが、その分の負担が重くのしかかっていることは確かだった。

私もできる限りサポートしているが、どう考えても本人のキャパシティーを超えた負担がかかっている。

今日は休ませてあげよう。部屋が散らかっていたことも咎めないでおこう。

私はそう考えると、ベッドからストンと落ちるように飛び降りた麻奈の肩に手をそっと置いた。

制服のまま慌てて体を起こして部屋を片付けようとした矢先、お姉さまの手が肩に置かれ

「今日はもう休みなさい」

はっとして振り向くと、お姉さまが心配そうな表情で私を見ていた。

「別に、大丈夫です」

「どう見ても大丈夫じゃないでしょう。時には休むことも大切よ」

私はきっとお姉さまを睨むと、ぶっきらぼうに言い放った。

「…離してください」

「いけません」

私はギリッと音が鳴る程に奥歯を食いしばった。

確かに、お姉さまの方が正しい。

私自身、ここで無理をしてもろくに作業が進まないのは感覚的にわかっている。

でも納得がいかなかった。

今の私は妹としての義務感というより、自分の抱えた不安をお姉さまに八つ当たりしているという方が正しかった。

「私のことなんてほっといてください」

「こらっ、麻奈」

両肩を軽く掴まれる。

ほんの小さな力だったが、それで十分だった。私はわかりやすくひるんでしまう。

部屋の空気が張り詰める。

私はお姉さまから目をそらし、固く口をつぐんで俯いた。

お姉さまが両膝を床につけてしゃがみこむ。そして私の顔を下から覗き込んできた。

「…妹として頑張っているのは私も知っているし、とても嬉しいわ」

黙ったまま唇を噛む。

私は絶対に答えるものかと、何も聞こえていないように振る舞った。

「でもね、それで体を壊したらいけないの。わかるでしょう?」

お姉さまの声は、わがままを言う子供をたしなめているような口調で。

理由は分からないけれど、その口調は嫌だった、癇に障った。

私は片付けすらさせてもらえないのかと。

言いようのない怒りに変わった。

「ほら、徽章が外れかけているわよ?」

お姉さまの手が私の制服のシャツに伸びてくる。胸ポケットについている小さなエルマーナ徽章にお姉さまの指が触れた。

「明日教えてあげるから一緒に縫いましょう。綺麗にしたらきっとあなたによく似合うわ」

わざと話題を変えようとしてくれたのだろうか。

お姉さまは笑顔を浮かべながら私をじっと見ている。

普段の私だったら、ここで「はい」と答えてチリチリとした空気はおしまい。

でも今は、それが私の中にあるもやもやした気持ちに火をつけ、爆発してしまった。

いけない、と思った時にはすでに遅く。

パチンッ!という皮膚を打つ軽い音が、部屋に響き渡った。

私が反射的に、徽章に触れていたお姉さまの手を強く叩いてしまったのだ。

お姉さまは、見ず知らずの他人に突然痛打された時のような顔をして。剥製になったかのように固まっていた。

顔を見られず、私は黙ってお姉さまから離れる。

「え…、ま、麻奈…?」

後ろから困惑したようなお姉さまの声が追いかけてくる。

だが私は相変わらずそんなものは聞こえない様に振る舞い、本棚の前に立った。

「ちょ……麻奈、どうしたの…?」

後ろから肩に手をかけられる。

私の中のもやもやした感情が、私の頭のどこかで突沸した。

「――馬鹿にしてるんですか……!」

「え……?」

感情のままに私は、ぱんっとお姉さまの手を振り払った。

お姉さまから子供を相手にするような気遣いを受けている気がして、それが無性に悔しかった。

私は妹なのに。お姉さまにまで出来ない子とみられるのが嫌だった。

どうあがいても言い訳のしようがない子供の癇癪だが、それでも私はお姉さまに馬鹿にされているような気がして、八つ当たりを爆発させてしまった。

「私がっ、私が何もできない妹だからですか!お姉さまみたいにちゃんとできないから、子供扱いして、馬鹿にしてるんですか!」

一方的な言いがかりであることは自分でも十分理解していた。でも、自分以外の誰かが自分を動かしているようでどうにもできない。

お姉さまはとても哀しげな目になっていた。じっと見ていると静かに溶けてしまいそうな、透明に近い視線だった。

「麻奈、私はそんなつもりじゃ…」

「お姉さまには分からないですよ!何でもできる人に私の気持ちなんか!」

「ち、ちが…、私はただ…、あなたのことが心配で…」

お姉さまの視線は儚げで、私の奥にしみ込んできて無視できない影を落とす。

でもそれは、今の私にとっては全くの逆効果で。

「知ったような口利かないでくださいよっ!」

感情のまま乱暴に振り回した手に、本棚に倒れて放置されていた本が引っかかる。

本はそのまま飛んでいき、お姉さまの隣をかすめ、背表紙から床に叩きつけられ鈍い音を立てた。

「どうせどうでもいいと思ってるんでしょう!私みたいな下賤の生まれなんか!」

「麻奈…」

何か大切なものを失くしてしまったような、悲しい視線が私をとらえる。

そこで初めて私は、自分が涙を流していることに気が付いた。

「所詮他人の私が倒れてどうなろうが、お姉さまにはどうでもいいことじゃないですか!」

どうしていいかわからず私は、言ってはいけないと分かっていることを叫んでしまった。

***

麻奈は涙声を、喉が壊れるのではないかという大音量で投げつけてくる。

射殺すような鋭い視線に、私は呆然として立ち尽くすしかできなかった。

そして本が飛んできたとき、私の胸に渦巻いていた動揺が、爆発的な勢いで一つの思考に収束した。

「所詮他人の私が倒れてどうなろうが、お姉さまにはどうでもいいことじゃないですか!

「いい加減にしなさい!」

電気信号を介していないように怒りがそのまま神経を走り、私の右手を勢いよく振り上げさせる。

このまま手を振り下ろせば、私の右の手のひらは麻奈の頬をしたたかに打ち据えるだろう。

しかし、目の前で麻奈はただぎゅっと目を閉じただけだった。

逃げようとも、手でかばおうともしていない。ただ次の瞬間に来るであろう衝撃を待っている。

それを見た瞬間、振り上げた手のひらが小さな点に縮まるような錯覚を覚えた。

ぎこちなく私の首が振り上げた手の方を向く。

水風呂に入った時のように全身から怒りという名の熱が奪われて、体の中心にゾクリとした感覚があった。

動揺から自分の視線が宙を泳ぐのが分かる。

私は何を……。

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